2011年10月20日 (木)

困ってるひと

「生存権」と言う言葉を習ったのは小学生の頃ですね。社会の授業の中で、日本国憲法第25条が国民に対して「どんな酷い事があっても、皆、生きていていいんだよ」と言っているのですね。すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する、という文言は、「クラスの中で困っている人がいたら、皆で手助けしましょう」というふうに噛み砕いた訳です。

そしてこの本『困ってるひと』。ビルマ難民を助けたいと走り回っているうちに、突然発症したのが筋膜炎脂肪織炎症候群+皮膚筋炎という原因不明の難病です。この病名を特定できる病院にたどり着くまでの苦労もさることながら、入院生活での様々な出来事には、読者として着いていくだけで精一杯になってしまいます。「ほぼ前例がない」と言うことは、治療法がない(だから難病なのですね)病気とつきあって生きていく為に、身体障害者手帳の申請とかしなくてはなりません。役所の窓口に出向いて各種証明書を貰うだけでも大変な作業になってしまいます。これを彼女は「制度」のマリアナ海溝で書類と格闘するというふうに表現しています。一番困っている人の状況を見るとその国がどれだけ民主的であるかが解ります。

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2011年9月23日 (金)

小さな村の希望

 東北に深く関ってこられた結城登美雄さんの名著が震災後、増補改訂されました。昭和四十年代までは遠洋漁師の仕事は陸仕事の倍は稼ぐことが出来、気仙沼はその遠洋マグロ船の最大の基地でありました。それが今ではマグロの漁獲量の減少で、陸仕事の半分も稼げなくなり、遠洋から撤退し故郷の海に戻ってみると、地元の浜にも魚がいなくなっていたのです。

 調べてみると、水質の悪化により海草が生えなくなったとか、いくつかの理由が見つかります。そこで海の掃除をしたり、山に木を植えたりという地道な努力を積み重ねていく事になります。その間に三十万人いた漁民が二十万人にまで減少してしまいました。

 世界の海に出かけていた東北の漁師たちが知恵を出し合って、資源管理型漁業というのが生まれてきたわけです。さあいよいよこれからだというその時に津波に襲われてしまったのです。

 一時は絶望のどん底にいた人たちがまた再び、希望を持ち始めています。函館等から中古の漁船が贈られても来ました。本当の復興は、目の前の浜で子や孫が生きていける海を取り戻す事です。消費や経済の視点にのみ捉われず、人の営みの持続をめざす海の物差しを獲得した東北の漁民が立ち上がり始めています。

『東北を歩く 増補新版』 小さな村の希望を旅する 新宿書房 著者 結城登美雄 価格 2,100円(本体2,000円+税)Cover

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2011年9月11日 (日)

日本の1/2革命

 今、政治に対する不信感が鬱積しています。戦後、半世紀以上も続いてきた自民党政権が倒れたのが一昨年の事でした。国民は自分たちの行動によって、もしかしたら世の中が変わるかもしれないぞと思ったのです。
 しかも「コンクリートから人へ」というスローガンの下、事業仕分けで役人を追及する姿がテレビで中継され、八ッ場ダムは中止しますとか、現場で大臣が言うものですから、国民は本当に「政権交代」したのだと実感したわけです。まさか本当にやめるとは思っていなかったものですから、地元は猛反対。国民は「やるじゃないか民主党」と拍手を送っていたものです。
 この辺りから新聞の社説やコラムの論調が変化します。かつては「なぜ公約を守らないのか」というのが、民主党政権に対しては「マニフェストにとらわれずに」という論調になっていきます。いわば「理想はそうかもしれないが、現実は違う」みたいな目線ですね。民主党もそもそもが「政権交代」だけが唯一共通する目標の寄せ集め。改革を先送りしたい勢力に揺す振られて死に体になっているところに震災が襲ってきたと言う事なのです。もはや先送りできない課題の前で日本はこれからどちらに進むのでしょうか。

『 日本の1/2革命』 集英社  著者 池上彰 佐藤賢一  価格 798円(本体760円+税)Photo_2

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2011年5月 7日 (土)

プレス空知 5月7日号

 今、本屋として何が出来るだろうか?カミユの『ペスト』のなかで読んだように記憶している「仕事をしたまえ、仕事を」という言葉がいつも頭の中で行き かっていました。僕は本屋だから出来る、いや本屋にしか出来ないような仕事をしたいのです。余計な事をそぎ落として、今こそ本をお奨めするとしたら、どん な本を選んだら良いのだろうかと考えてきました。
 そこで思いついたのが天童荒太の『悼む人』でした。抗いがたい運命によって亡くなってしまわれた人々の事を、私たちは「悼む」事しかできません。亡くなってしまった人が誰を愛し、誰に愛され、どんな事をして人に感謝されていたのかを思いやる事しか出来ないのです。
 死者と遺族の様々なあり方を記憶し悼む事。今現在がまだ悲劇が進行中であるかのような不条理な事態の中で、私たちが出来る事は助け合う事でしかありませ ん。大いなる災厄の前で、あまりにも無力な私たちは肩を寄せ合ってかばい合い、ただひたすら助け合う事しか出来ません。絶望に打ちのめされそうになった 時、亡くなった人の分まで、そして愛され悼まれた人に恥ずかしくないように生きていく事しかできないのです。悲しみを背負いすぎて倒れてしまわないように ね…

『悼む人』 文藝春秋   天童荒太  価格 1,700円(本体1,619円+税)今月文庫化!Cover

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2011年4月23日 (土)

プレス空知 4月23日号

Cover1 (柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に2時間並ぶ
パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる

2008年の年末、朝日新聞の「歌壇」欄に登場した公田耕一さんの住所は「ホームレス」。リーマンショックの後、ホームレスが急増し、年越しのテント村が作られたあの冬を象徴する投稿歌人でした。
 百年に一度の経済恐慌に対して、労働者を解雇する事によって企業はその組織と利益を守りました。実はあの時に私たちは気づくべきであったのです。あれが 日本人とその社会に降りかかった災厄であり、ホームレスという被災者をどう助けていくかという問題に取り組むべきだったのです。

親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす
日産をリストラになり流れ来たるブラジル人と隣りて眠る

テレビの向こうで政治家たちは議論しているようなふりをくり返し、迫り来る危機に対して何の手立ても講じる事はありませんでした。そこにこの大震災です。

胸を病み医療保護受けドヤ街の柩のやうな一室に居る

 この歌を最後に消息を絶った謎の歌人の正体に迫ったノンフィクションです。

ホ-ムレス歌人のいた冬  東海大学出版会   三山喬  価格 1,890円(本体1,800円+税)

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2011年2月19日 (土)

プレス空知 2月19日号

L300_  御一新から10年。夢と希望に溢れているはずだった明治の世の中で人々はもがき苦しんでいた。時代の先を指し示していたはずのベストセラー『学問のすゝ め』の威光も地に落ち、噺家風情までがその不備を言い募る始末。官員が威張り散らすのも気に入らなければ、民に自由は訪れず、米価はやみくもに上がり、農 民たちが一揆を起こし、士族は職と家禄と矜持を奪われ暴動に走り、貧民はやはり貧民のままであったのです。
 何とも小説の舞台にするには辛い時代の東京・根津遊郭。主人公定九郎は元御家人という事を隠して美仙楼という見世で立番を務めています。当てにもされ ず、いくらでも代わりがきく仕事に嫌気が差しても逃げ場などは無く、さりとて思い切って西郷軍の戦いに加わることも出来ません。
 見世の大看板小野菊花魁、剃刀のように切れる妓夫太郎の龍造、噺家の弟子で幽霊のようなポン太やらの一人一人の性格の描き分けがとにかく見事です。物語 の中ほどからは花魁を苦界から救い出すための策が立てられ、それからの息もつかせぬ展開には思わず引き込まれてしまいます。
 圧巻はクライマックスの花魁道中ですね。今回の芥川賞・直木賞の4作品のなかでこれが僕の一番のお奨めです。

『漂砂のうたう』 集英社   木内昇  価格 1,785円(本体1,700円+税)

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2011年2月 7日 (月)

プレス空知 2月5日号

011  便利屋っていう職業はこれからの時代には何かと必要とされるのでしょうね。旅行の時のペットの世話から大型ゴミの処分まで、自分の手に余ることは沢山あるものです。
 東京の西のはずれに位置するまほろ市の駅前で軽トラ一台で営業する多田便利軒。住宅兼事務所の安アパートにころがりこんできたのは高校時代の同級生・行 天春彦です。別に仲が良かったという訳でもなく、いやむしろ気に入らないヤツくらいの印象しかなかった二人が、ひょんな成り行きから共同生活を始める事に なってしまいます。
 共に離婚歴があり、中々に思うようにはいかない人生を生きてきた二人。つまづいたり、傷ついてきた分だけ他人の気持ちが判ってしまい、単純な依頼かとつ い引き受けてしまった事が、とんでもない‘事件’に発展してしまうのです。大体がこの世界、無垢な心がすくすくと育って大きくなった人間なんている訳があ りません。イヤな事や辛い事だっていっぱいあったけど、千切れそうになる心をなんとか繋ぎとめて生きてきた。そんな登場人物たちの‘幸せ’を再生させるの が彼ら便利屋の仕事だったのです。
 第135回直木賞受賞作品が、瑛太と松田龍平の主演で映画化されました。4月公開予定です。

『まほろ駅前多田便利軒』 文春文庫 三浦しをん 価格 570円(本体543円+税)

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2011年2月 2日 (水)

北海道新聞 1月30日 読書欄

Cover  中勘助の「銀の匙」という小説を知っていますか? 文庫本で200ページくらいの薄い本ですが、実際に読んだ人はそう多くはないでしょう。この本を3年がかりで読んでいく国語の授業をした中学の先生がいました。
 人気ある先生の面白い授業は脱線が多いものですが、このエチ先生(橋本武先生のあだ名)の横道は度が過ぎるもので、ある時は凧を作って校庭で凧 揚げ。またある時は野山に七草を探してかゆを炊くというもの。検定教科書を使わず大量のプリントを手渡して進めた、3年間の授業の様子が、伊藤氏貴著「奇 跡の教室」(小学館)にまとめられて年末に刊行されました。
 手軽に得られるような知識は簡単に忘れてしまいます。カリキュラムをこなすスピードが問題なのではなく、物事を深く理解する力や思考を鍛える事が大切なのだと、この本は教えてくれるのです。
 僕も高校時代、教科書を使わない授業を受けた経験があります。1200年前の中国に留学した阿倍仲麻呂の歌からアジアの歴史、そして中東問題に ついて語りだす古典の先生。毎時間、詩のプリントばかり山ほどくれた国語の先生。とにかく真剣勝負でした。今になってそれがいかに貴重だったかが理解でき ます。
 「奇跡の教室」を読み、現代の便利さと管理が生徒と教師から奇跡を奪っているのではないかとも思いました。
(岩田徹=砂川・いわた書店店主)

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2011年1月29日 (土)

プレス空知 1月29日号

74

 与謝野さんが入閣してからと言うもの、もう消費税は10%になるのが決まったような物言いが大手を振ってまかり通っています。財政の建て直しのために広く公平に負担してもらうなんてのは大嘘です。結論から言うと、出版物は非課税にしてもらいたい。
 そもそも本や文化は消費されるべきものではない。本は書かれ、そして読まれるべき物なのです。国づくりの基本が人づくりにあるとするなら、文化に課税するという事は自殺行為でしかありません。書店は安いところから仕入れる事も出来なければ、高く値付けすることも出来ない利の薄い商売です。それが消費税により深刻なダメージを受けて、結局は出版社と書店の倒産と廃業を招いているのです。
 大量のアルバイトを小刻みに回して社会保険料や厚生年金を削り、低人件費構造の店にはしないのが、町の本屋としてのせめてもの矜持です。その収益構造を破壊する消費税は悪税以外の何物でもありません。
 消費税の見直しを図るというのであれば、どうあっても文化への課税を止めるべきです。メディアに露出して
財務省、経産省、外務省、内閣府、金融庁等の対外市場開放派の官僚の意見を代弁しているのが誰であるのかを見極めなくてはなりません。

民主党が日本経済を破壊する  文春新書  与謝野馨 価格 809円(本体770円+税)

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2011年1月22日 (土)

プレス空知 1月22日号

_  砂川市立病院が新しく大きくなりました。あれだけの建物が出来上がると町の風景が変わります。そしてなんと言っても、ここで暮す市民の信頼と安心感は何物に代えがたいものがあります。
 そこで私たちが判断に困るのが、夜間や休日に具合が悪くなった時、「どんな症状の時に、119番コールして救急受診すべきなのか? 」また、「どんな症状の場合は、翌日の受診でもよいのか?」の判断です。
 例えば、背中の痛みです。何度か痛くなったけれども収まっていた。今日は痛みがひどく、だんだん上のほうが痛く感じて、冷や汗も出てきたなんていう症状 は何か嫌な病気が疑われますが、これが一秒を争って病院を受診するか、後日の受診にするかという判断はとても素人には出来ません。
 遠く離れた高齢の両親が、九州福岡の救急救命センターで働く息子に、こんな時はどうしたら?と電話をかけて来たことがこの本の出来るきっかけとなりまし た。彼は「こんな時にはすぐに病院」に行くように要点をまとめた紙を作って両親の家のトイレと電話の傍に貼り付けたのです。
 その『緊急時早見表』が巻末の付録としてついた本がこの度全国発売の運びになりました。安心・安全な老後のために正に待たれていた一冊です。

『いつすべきか?119番』ワイズアップ刊 税込1,600円

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