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2014年4月

悼む人

Photo 先週起きた珍島の旅客船の事故は、あまりの悲惨さに胸がふさがれるような息苦しさを感じます。韓国の人々は、今は何も手につかず、テレビの前から動けずにいるようです。阪神淡路の震災や3.11の時の事が思い出されます。しかし今回の重苦しさはそれが、いくつもの過ちが重なったというほぼ人災であるという点にあるのです。しかもその後の対応の不手際も、そのままダダ漏れ状態で生中継され、見せ付けられるという事も家族にとっては耐え難い状況であるに違いありません。
 この突然の災禍に巻き込まれた三百有余人には(もちろんの事ですが)一人ひとりのかけがえのない人生が、確かにありました。何か無機質な数字だけがカウントされてゆく流れの中で、人々の心に想われているのは一人ひとりの記憶です。強大な絶望感の中にあって、人にはなにが出来るのか。全ての記憶を一身に引き受けるように、誰一人をも忘れないように訪ね歩く静人。「誰かを愛し、誰かに愛され、どんなことで、誰かに感謝されたことがあったでしょうか?」と人々に訊いてまわり、今はただそっとそばに寄り添って、忘れないように耳を傾け、一緒に悼んであげる事。それが日本人に出来ることの全てではないかと思えてきました。

悼む人 上下巻 文春文庫 天童荒太 価格 617円 596円

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認知症のベストチョイス

Photo 週に一二度、孫たちと風呂に入ります。以前はイヤがっていたシャンプーも、最近は目に入らないようにコツを覚えたので、頭をワシワシと洗います。身体もチャチャッと洗い上げた後は湯船の中で遊ぶ時間です。本当に楽しそうに、笑って遊んで汗をかきます。蛇口から水を飲んで、指の先がシワシワになったら、ハイおしまい。男の子、二人とのバスタイムは、イイ汗をかかせてくれます。昔は「酒がマズくなる」とか言って、水をガマンしたものですが、身体に良くないと知って、努めて飲むようにしています。湯上りの格別に旨いビールを飲みながら、年寄りと子供の会話を聴いていると、可笑しいんです。「危ないこと、ヤメナサイッ!」と注意された孫も負けてはいません。「もー、テレビすっごくうるさーい!」まるで子供が三人で遊んでいるようにも聞こえます。昼夜の生活が逆転したり、大好きなものばかり食べ続けたり、時々薬を飲み忘れたり、おかしな物が冷蔵庫に入っていたりするくらいは、子供たちの仕業だと思えば、大したことではありません。お互い様と割り切って、皆で何とかしていくだけの事です。土曜日には交流センターで『地域で認知症の方を支えるために』という講演会があります。

認知症のベストチョイス 主婦と生活社 日本放送協会 価格 1,178円(本体1,091円+税)
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村上海賊の娘

51pqefevwl_sl500_aa300_ 自分が住んでいる町のダメなところならいくらでも言える人がいます。同じ様に、自身が属している会社や組織に足りないモノやヒトを数え上げ、だから仕事がうまくいかなくて給料が上がらないと愚痴ばかりこぼす大人たちがいます。こんな不平不満ばかり聞かされる子どもたちに「夢が ない」とか言っても無理な話です。
 状況が厳しいのは20年も前からずっと同じです。それに文句を言っても始まらない。今あるメンバーと手持ちの機材で立ち向かわなくてはなりません。求められるリーダー像は「ワンピース」の船長ルフィーであり、「のぼうの城」の成田長親であるのです。「のぼうの城」を映画でしか見ていない人はもったいない、ぜひ原作を読むべきです。野村萬斉のキャラではちょっと軽すぎる。和田竜が描くのは、もっと深い暗さを背中に秘めて、それでも明るさを失わないという、実に魅力的な人間です。そんな和田竜が4年の歳月を費やして書き上げた『村上海賊の娘』が今年の本屋大賞に選ばれました。去年、亡くなった父親が「うちのご先祖様は村上水軍だ」と語っていましたが、むろん家系図も、確かめる術もありません。ただちっぽけなロマンを胸に、人生に明るく立ち向かおうとするだけです。

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アンのゆりかご

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 始まったばかりの朝ドラ、『花子とアン』の山田望叶(もちか)ちゃんのあの愛らしい瞳にはやられちゃいました。イヤなニュースばかりを見せられている、いささか疲れの溜まった大人たちには最強の清涼剤です。どうもこれからの世の中は悪い事になっていくようだという漠然とした不安の中に、私たちはいます。その私たちは、1900年から始まったこのドラマの時代が、戦争へと転がり落ちていく大変な時代であるという事をすでに知っています。だからこそ健気に生きていこうとする花子を応援してしまうのです。小学校にも行けなかった小作農の子どもが給費生となって、英語を身につけ時代に立ち向かうなんてスゴイことです。苦しいときに『赤毛のアン』の中の、あの有名な言葉が励ましてくれます。「自分の未来はまっすぐにのびた道のように思えたのよ。いつも先まで、ずっと見とおせる気がしたの。いま曲り角にきたのよ。曲り角をまがったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの」本当に人生は、死ぬまで、いや死んでからだってどうなるか判りません。あの角を曲がらなければ今日と云う、人生で一番幸せな日はなかったかもしれないのです。

『アンのゆりかご』村岡花子の生涯 新潮社 著者 村岡恵理 価格 810円(本体750円+税)


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トリツカレ男

Photo H B C 今日ドキッ!で砂川が取り上げられました。後段でウチも取り上げられたのですが、テレビの短い(というか忙しい)枠の中でよくぞまとめてくれました。感心するばかりです。何度かメディアとお付き合いさせていただいて、それぞれの特性がなんとなくつかめて来ました。テレビの世界は「秒」の単位で追いかけられるのに対し、ラジオの世界は「分」単位、本は実に「年」の単位なのですね。すぐに陳腐化してしまうものもありますが、百年の時を超えて燦然と光り輝く「言葉」を体現する名著があるのが本の本たるゆえんなのでしょう。そこにテレビで本を取り上げることの難しさがあるのだとも言える訳です。放送ではカットされたのですが、佐々木佑花アナウンサーはこう切り込んできたのです。「今日(放映当日)はホワイトデーですが、チョコレートのお返しに贈るとしたらどんな本?」少し考えて選んだのが、いしいしんじ『トリツカレ男』でした。たった150ページほどの短い物語。ジュゼッペは何かに夢中になると寝ても醒めてもそればっかり。オペラ、三段跳び、サングラス集め、潮干狩り、刺繍、ハツカネズミetc.そんな彼が風船売りの少女に恋をした…佐々木アナ、感動してくれたかな?

『トリツカレ男』新潮文庫 著者 いしいしんじ 価格 420円(本体400円+税)

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