悼む人
先週起きた珍島の旅客船の事故は、あまりの悲惨さに胸がふさがれるような息苦しさを感じます。韓国の人々は、今は何も手につかず、テレビの前から動けずにいるようです。阪神淡路の震災や3.11の時の事が思い出されます。しかし今回の重苦しさはそれが、いくつもの過ちが重なったというほぼ人災であるという点にあるのです。しかもその後の対応の不手際も、そのままダダ漏れ状態で生中継され、見せ付けられるという事も家族にとっては耐え難い状況であるに違いありません。
この突然の災禍に巻き込まれた三百有余人には(もちろんの事ですが)一人ひとりのかけがえのない人生が、確かにありました。何か無機質な数字だけがカウントされてゆく流れの中で、人々の心に想われているのは一人ひとりの記憶です。強大な絶望感の中にあって、人にはなにが出来るのか。全ての記憶を一身に引き受けるように、誰一人をも忘れないように訪ね歩く静人。「誰かを愛し、誰かに愛され、どんなことで、誰かに感謝されたことがあったでしょうか?」と人々に訊いてまわり、今はただそっとそばに寄り添って、忘れないように耳を傾け、一緒に悼んであげる事。それが日本人に出来ることの全てではないかと思えてきました。
悼む人 上下巻 文春文庫 天童荒太 価格 617円 596円
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