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2014年5月

居酒屋ぼったくり

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 たとえば吉田類さんがテレビで紹介するような居酒屋と云えばいいのでしょうか。東京の下町にひっそりとある居酒屋「ぼったくり」の物語。それぞれのお客に合わせた旨い酒と肴。美味しい飯と人情があるお店。これまでのグルメ紀行ものや、料理レシピ本とも違うジャンルが出来つつあります。コミックですと『深夜食堂』とかですし、このぼったくりもそうですが「お客一人ひとりを大切に扱ってくれる店」として描かれています。両作ともがフィクションであるのも、こんな店があったらイイな~というノスタルジックな雰囲気に包まれているのも、現実にはかなり少なくなってしまったという事情からなのでしょう。チェーン店のマニュアルどおりのやたら早口な接客に辟易するのは、働く人がちっとも楽しそうでないという事が、こちらにも伝わってくるからです。外食というホンの少しの贅沢な時間を心豊かに過ごせないのであれば意味がありません。コンビニやチェーン店やディスカウントに食い荒らされた町では、会社の利益しか頭に無い店長や、疲れ果てたバイトから物を買わざるを得ません。人生という限られた時間を、心安らかに過ごせる店がいくらかでも残る町で暮らしていきたいと思うのです。

『居酒屋ぼったくり』 アルファポリス 著者 秋川滝美 価格 1,296円(本体1,200円+税)


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アメリカ様

Photoネット上で米国メディアの論調を見ると、安部首相はかの国の総書記と同じくらい(もしくはそれ以上)にアブナイ指導者と思われているようです。彼の云う「積極的平和主義」をNYタイムズが社説でwhat he calls proactive pacifism と訳しているとの事。直訳すれば「彼のいわゆる先取り的平和主義」ですが、文脈から日本政府が「いずれ平和を乱す事になるかも?」と判断したら他国への武力攻撃を含む干渉を行うというニュアンスが読み取れます。そんな日本の(無意味に)積極的な行動によって、アメリカが日中間の紛争に巻き込まれるのはゴメンだし、東シナ海のちっぽけな岩礁をめぐって若いアメリカ兵の血を流すなんて(選挙もあるのに)とんでもないというのが民主党政権の雰囲気らしいのです。わが政府・与党のワシントンへのいじらしい程の忠誠心など全く伝わりません。これは日本国民がアメリカに隷従しているのではなく、権力者が自らの権力を守るために国民を売ってでも強者(米国)に媚びるという構図であるということを自らさらけ出してしまっているようなものです。アメリカを褒め殺し、日本人を皮肉るジャーナリスト宮武外骨なら今なんと云うでしょうか。

アメリカ様 ちくま学芸文庫 著者 宮武外骨 価格 1,080円(本体1,000円+税)

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中国化する日本

Photo単行本で出た時には、正直題名にビビッてしまい読まずにおりました。文庫化されて一読し悔やみました。おそらくは今世紀中に何度も取り上げられるテキストのうちの一冊になるでしょう。中国というのは実は毛沢東の共産中国の時代が特殊であって、習近平の中国=「新自由主義の独裁国家」がその本来の姿であるというのです。してその起源は宋朝に溯り(皇帝以外の)身分制や世襲制が撤廃された結果、移動の自由・営業の自由・職業選択の自由が確立されていたといいます。科挙を通じて官吏になる道も開かれた、世界で最初の新自由主義であったという訳です。男女は別としても機会の平等は確立され、無能な貴族連中による既得権益の独占が排除される一方で、ふるい落とされた人間には何の保障もありません。ですから華僑という形でリスクを分散してきたのであって、党幹部が子弟や資金を海外に移すのは一族の危機管理以外の何物でもありません。西欧や日本などは随分と遅れて中国化しつつあるのだというのです。元寇は「元祖TPP」vs.鎌倉御家人の反グローバリズムの闘いであったとか、日本の歴史がまるで違って見えてくるという驚愕の内容満載で、難しいことをやさしく説く35歳に脱帽です。

中国化する日本 増補版 文春文庫 日中「文明の衝突」一千年史 著者 與那覇潤 価格 756円(本体700円+税)

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晴天の霹靂

Photo 突然に心を揺すぶられて、抑えきれなくなりそうな時があります。韓国の旅客船事故のニュースは、実に痛ましいものでした。様々な情報の中で、イカ釣り漁船が集まって、海面を照らし続けたという事を聞いたときには、情景が想い浮かんでなにかこうぐっと来るものがありました。砂川ふくろうカードのポイント発行機は誕生日にお客様が利用されると「ハッピバースデイ~♪」と音楽が流れます。お誕生日おめでとうございます、と言ってあげるとすごく喜ばれます。あるお客様は「そんな事を言われたのは何年ぶりだろう」と、こちらがびっくりするぐらい感激していました。涙(感動)というヤツは急に立ち現れます。劇団ひとりが描くのは、学歴もなければ、金もなく、もちろんもてない三十五歳の晴夫。普通に勉強して、普通にスポーツも出来て、そういう連中はどうせ普通のサラリーマンになって、普通に結婚して、普通の家に住むような、普通の空しい人生をおくるんだと馬鹿にしていた主人公を映画では大泉洋が演じます。この歳になってやっと「普通」を手に入れることの難しさに気づかされたのです。場末のマジックバーで鬱々とした日々を送り、「なんで生きてんだ俺?」とつぶやく彼に転機が訪れます。

青天の霹靂 幻冬舎文庫 劇団ひとり 価格 535円(本体495円+税)

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人質の朗読会

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 この小説の設定には全く驚きました。旅行会社のツアーに参加した八人は、地球の裏側にある国の山岳地帯で反政府ゲリラの襲撃を受けて捕らえられてしまいます。ゲリラと政府の交渉はあくまで水面下で進められ、長く膠着状態が続き、人々が事件のことを忘れかけた頃に事態は急展開します。軍と警察の特殊部隊がアジトに強行突入し、激しい銃撃戦の末に、犯人グループは全員射殺、人質も全員爆死してしまいます。実は物語りはここから始まるのです。人質が閉じ込められていた山小屋には、特殊部隊がひそかに盗聴器を仕掛けてあり、録音されていたのです。聞こえてきたのは、人質たちが朗読する物語。「自分の中にしまわれている過去、未来がどうあろうと損なわれない過去」を朗読する人質たちの声でした。盗聴した政府軍兵士が語ります。…彼らの朗読は、閉ざされた廃屋での、その場限りの単なる時間潰しなどではない。彼らの想像を超えた遠いどこかにいる、言葉さえ通じない誰かのもとに声を運ぶ、祈りにも似た行為であった。その祈りを確かに受け取った証として、私は私の物語を語ろうと思う。…人を代替の利くコストとしか見ない世相の中で、誰にも物語があるのだと作者は語りかけます。

人質の朗読会 中央公論新社 著者 小川洋子 価格 596円(本体552円+税)


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